Durability 2.0

第5章:高用量糖質120g/h + クレアチン(PCr/CK)——燃費の天井「VT1」死守と無機リン酸緩衝


登り返しの恐怖——「おにぎりを食べているのに,登りが入ると失速する」

雲取山のブナ坂から小雲取山へ向かう最後の登り返し.鉄雄の足は再びピタリと止まりました.

「おかしいな……登山口でも,七ツ石小屋でも,おにぎりと行動食をしっかり食べたはずだ.ハンガーノック(シャリバテ)で動けなくなるようなハンガー状態じゃないはずなのに,登りになった瞬間に全然パワーが出ないんだ」

息を荒らげてゼーゼーと肩を上下させる鉄雄に対し,金田はボトルから自家製の高濃度糖質ドリンクを淡々と補給しながら,安定したハイペースで登り続けていきます.

「鉄雄,お前が食べている量じゃ,『燃費の天井(VT1)』の落下を止められないんだよ」

金田が見せたスマホのデータには,山行が3時間を超えたあたりから,補給不足の登山者の体内で起きている劇的な生化学的変化が記録されていました.

「ハンガーノックになる遥か手前で,僕たちの有酸素の上限(VT1:鼻歌で歩ける限界ペース)が有意に低下しているんだ」


Dudley-Rode (2024) と Norte (2026) が示す「VT1沈下」と 120g/h までの用量依存的な保護効果

なぜ,おにぎりや通常の行動食(1時間あたり30〜40g程度の糖質)を摂っていても,登り返しで絶望的な失速が起きるのでしょうか?

最新のスポーツ生理学研究(Dudley-Rode et al., 2024, EJAP 125:1349-1359 [1])は,2時間半の中強度運動後にVT1(第1換気性閾値の出力)が有意に低下すること,そして運動中の糖質補給がその低下を有意に抑制することを直接示しました.

【Dudley-Rode 2024:150 min運動後の VT1 出力】
  PRE(新鮮時):229 ± 37 W
  POST CON(無補給):216 ± 35 W(Δ -6 ± 4%,p = 0.001)
  POST CHO(糖質補給):225 ± 36 W(Δ -3 ± 2%,p = 0.027)
  → 無補給 vs 補給の群間差:Δ -7 ± 9 W(-3 ± 4%),p = 0.019
  つまり運動中の糖質補給で VT1 の低下量を約半分に抑えられる.

【Norte 2026:120 g·h⁻¹ までの用量依存的な CP 保護([2])】
  3時間の中強度運動後の Critical Power の低下は,糖質摂取量(0/30/60/90/120 g·h⁻¹)の
  増加につれて用量依存的に減衰する.120 g·h⁻¹ で最も強い保護効果.

【なぜ 120 g·h⁻¹ を狙うのか(メカニズム)】
  SGLT1(ブドウ糖輸送体)と GLUT5(果糖輸送体)を同時にフル稼働させることで
  小腸吸収律速を突破し,通常上限とされる約 60〜90 g·h⁻¹ を超える外因性糖質酸化速度が実現する.

🤔 筋電図(EMG)が示す「燃費悪化」の実体
糖質が枯渇すると,筋電図の運動単位動員シフト(Median Power Frequencyの上昇)が起こり,疲労した遅筋(燃費の良いハイブリッドエンジン)を補うために,エネルギー効率の悪い高閾値の速筋線維(ガソリン大食いのターボエンジン)を強制動員せざるを得なくなります.これが「おにぎりは食べているのに登りで燃費が激悪化してバテる」生理学的実体です.


雲取山N=1観察——Fatigue Ratio低下が大幅に抑制された120g/h試行

著者自身の雲取山同一コース比較(2026年7月)での120g/h高用量糖質試行では,以下のプロファイルが得られました.


クレアチン(PCr/CK)エネルギーシャトル——無機リン酸($P_i$)の爆発的蓄積を防ぐ

「でも金田,糖質120g/h(ハイオクガソリン)を入れるだけで,急登での高回転出力が何度でも維持できるのか?」

鉄雄の質問に対し,金田はもう1つの重要な生化学的ピース——クレアチン(Creatine Monohydrate)の役割を説明しました.

「120g/hの糖質が『燃焼し続けるガソリン』なら,クレアチンは『エンジンが高熱を出して焼き付くのを防ぐエンジンオイル&冷却液』なんだ」

【急登(勾配15%超)での高負荷運動】
  ATPおよびクレアチンリン酸(PCr)が急速分解 ➔ 筋細胞内に「フリー無機リン酸(Pi)」が20〜40 mMまで爆発的蓄積!
  ➔ 無機リン酸(Pi)がアクトミオシン架橋(筋収縮)を直接阻害し,筋線維が焼き付く(出力低下)

【クレアチンプール(PCr)が飽和している状態】
  事前補充されたPCrが Pi 蓄積速度を強力に緩衝(Buffer)
  ➔ 登り返しの合間の緩斜面・平坦(Zone 1-2)で,ミトコンドリア型CK(mtCK)を介して数十分秒で PCr を再充電(Recharge)!

🤔 脳内クレアチンと Central Governor(中枢ブレーキ)の抑制
最新脳生化学研究(PMC10892543, Sports Med 2025)により,クレアチン(日常的に3〜5g/日摂取)は骨格筋だけでなく脳(前頭葉・運動野)のクレアチンプールも増大させることが判明しました.高所(2,000m超)や長時間山行による低酸素・睡眠不足時でも,脳神経細胞のATP低下を防ぎ,脳からの「もう動くな」という中枢ブレーキ指令をブロックしてくれます.

graph TD
    subgraph Fuel ["120g/h 超高用量糖質 (ガソリン)"]
        A1["マルトデキストリン + 果糖 (2:1)"] --> B1["SGLT1 + GLUT5 トランスポーター並列吸収"]
        B1 --> C1["解糖系 ATP 産生速度の極大維持"]
        C1 --> D1["燃費の天井 (VT1) 垂直落下をブロック!"]
    end

    subgraph Oil ["クレアチン PCr/CK シャトル (エンジンオイル)"]
        A2["日常 3〜5g/日 補充"] --> B2["筋内 & 脳内 PCr プール飽和"]
        B2 --> C2["急登時 ADP + PCr ➔ ATP + Cr (CK触媒)"]
        C2 --> D2["無機リン酸 (Pi: 20-40mM) 爆発蓄積を緩衝!"]
        D2 --> E2["緩斜面・平坦で mtCK により PCr 高速再充電"]
    end

    D1 & E2 --> F["登り返しでの VAM (登高速度) 低下率 10%未満 を死守"]

金田の「ハイオク&オイル」処方箋

金田は山頂で,鉄雄に特製ドリンクのレシピとクレアチンの飲み方を渡しました.

1. 【ハイオクガソリン(120g/h糖質)】
   - マルトデキストリン(SGLT1ルート)と 果糖(GLUT5ルート)を 2:1 で配合
   - 自作ソフトフラスコに入れ,1時間ごとに120g相当をこまめに摂取(Gut Trainingで胃腸を慣らす)

2. 【エンジンオイル&冷却液(クレアチン)】
   - クレアチン・モノハイドレートを日常的に 3〜5g/日 摂取して筋肉・脳のPCrプールを満たしておく
   - 急登での Pi 爆発蓄積を防ぎ,緩斜面での再充電(Repeatability)を可能にする

「ガソリン(120g/h糖質)とオイル(クレアチン)の両方を揃えて初めて,何度登り返しが来ても高いVAMを維持できるんだよ」

鉄雄はその場でクレアチン入りのボトルを飲み干し,次の登り返しへと力強く歩み出しました.


参考文献

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